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A Perfect Night For Bananafish

だがそれを語るには人生は短すぎる

ロロイ「塔」

読んだ。

全体的に漂う死臭と不安感。
この不安感は映画「CUBE」を見たときのそれだ。映画「CUBE」は意図も目的もよくわからない悪趣味なトラップが仕掛けられた部屋から脱出を試みるソリッド・シチュエーション・スリラー。

一方この「塔」の主人公はこの狂気の塔を抜け出すのではなく、高みを目指し健気にも進み続ける。
うっとりしたり、無関心だったり、唾を吐きかけたり。
避けて通ることのできない各階を理由はともあれひたすら登る。
主人公はいたって淡々としている。それでいてnethack系迷宮探索ゲームのような謎の緊張感。

でも読者はいつだって自由に階を飛ばすことかできるし、戻ることも、やめることもできる。タロットを引くように好きな階から読み始めたってよい。
神の視点で各階を好きなようにウォッチできるのだ。ところが不思議なことにいつどの階を覗いてもそこにはいつも主人公がいる。
七十五階のお話は、そういうことなのかもしれない。こんな風に塔に秘められた謎や、秘められてない謎を深読みしながら読むのも一興である。なにしろそれぞれの話はすごく短いからね。LINEやTwitterで長文免疫なくなった人でも入り込みやすい。この「塔」自体、新しい投稿をどんどん上部に積み重ねてゆくタイムラインのようだ。それぞれのつぶやきに何らかの感情を抱いたり、一喜一憂したり、期待したり、無視したり。辛い気持ちならよせばいいのに次々と読み進めてしまったり。

読者は因果や目的がはっきりしないフラストレーションを抱えたまま、立て続けに悪趣味を見せ付けられる。そこへ時おり現れる美しいものに対する安堵感。と同時に拭えない不審感など、脳のいろんなとこが刺激され空想や創作の意欲をかき立てる奇書。
秋の夜長、ハロウィンシーズンにうってつけな百物語でした。