A Perfect Night For Bananafish

だがそれを語るには人生は短すぎる

「知の逆転」

知の逆転 (NHK出版新書 395)

知の逆転 (NHK出版新書 395)

読んだ。
知の巨人などと形容される6人へのインタビュー。

文明の崩壊 ジャレド・ダイアモンド

格差の是正が世界を安定に導くという。
富めるものは富み貧しきものは貧しく…という二極化は確かによろしくないと思う。
とはいえ完全に均質な世の中というのは熱的死とも言えるのではないか。競争力が向上心を生むとも言える気がする。同じ種としての人間でもこれだけ多様な文化や言語を持つ生物が歩み寄り、足並みを揃えるというのは、実に難しい課題だ。それを可能にした時、人類は幼年期を終え、文明の次のステップに進めるのかもしれない。

人生というのは、星や岩や炭素原子と同じように、ただそこに存在するというだけのことであって、意味というものは持ち合わせていない。

帝国主義の終わり ノーム・チョムスキー

最も重要な知識人と呼ばれる生成文法の大家。この方、なかなか辛辣な物言いなのでときどきウッってなるんだけど、それだけ深い洞察と的確な批評だからこそなのか。
チョムスキーが引用した有名な物理学の教授の話

学生「今学期はどんな内容をカバーするのですか」
教授「何をカバーするかは問題じゃない、重要なのは君らが何をディスカバーするかだ」

「子供がかわいいのは世話をしたくなるから」というのは意見が合った。

柔らかな脳 オリバー・サックス

この人の話は実に魅力的である。物語るのが非常に上手い。映画好きなら「レナードの朝」の人って言ったほうがわかるかもしれない。

精神病患者が、こっそり薬の服用を止めてしまうということがしばしば起こるんですね。
薬は彼らを生気のないゾンビのようにしてしまうからだと。

これは実感としてある。かつて向精神薬、いわゆる抗うつ剤を服薬していたわけだが、いわゆるアルコールのようなアッパー系のような作用を想像しているとそれは違う。あれを飲んだからといってハッピーになるわけじゃないんだよね。むしろ感情の起伏が平坦になる感じなの。これ、飲まないほうが人間らしいなって思ったことが何度かある。

神聖な音楽なんていうものはない、あるのはただ音楽だけだ

第一章のジャレド・ダイアモンドの人生の意味と似たような言い方だ。
ただ、そこに、あるだけ。

なぜ福島にロボットを送れなかったか マービン・ミンスキー

AI分野を切り開いた「人工知能の父」である。
人間に簡単にできることを無視し、コンピューターに得意なことをやらせエンターテインメントに走ったばかりに人工知能研究は実に30年を失ったとしている。チェスでは人に勝ててもドアを開けることすらできない。短期の研究しかできなくなっていることも原因のひとつだという。

彼はSFしか読まないそうだ。他のジャンルは全部同じに見えるらしい。
SFの90%はカスですよ。たまには他のも読むといいよ。
(とはいってもすべてのものの90%はカスであるけど。スタージョンの法則

サイバー戦線異常あり トム・レイトン

この章だけやたらとビジネス感溢れる。アカマイ・テクノロジー社の設立者のひとりである数学者。私が最初に勤めた会社の新人だった頃に、研修で初めてアカマイという名前を耳にし、なんかわからんけどネットの裏舞台を支えるスゴイとこだと知った。当時はピンと来ていなかったのだけど、コンテンツ配信とかホスティングの最大手。

彼が授業で使う話がよい。

n^2+n+41

という数式。
n=0 のとき 41で素数
n=1 のとき 43で素数
n=2 のとき 47で素数
n=3 のとき 53で素数
...
ビジネスの世界ではこれでもう「いつも答えは素数になる。それで決まりだ。」となるのだという。
しかしn=40のときに 41^2と等しくなり素数でなくなるのである。
40^2+40+41=40(40+1)+41=40(40+1)+(40+1)=(40+1)(40+1)=41^2というわけだ
次のn=41も当然41を因数として41(41+1+1)と分解できることからわかるように素数ではなくなってしまう。オイラーの素数生成式というやつだね。
ちょっと試してうまく行ったからって油断しちゃいかんのだ。

人間はロジックより感情に支配される ジェームズ・ワトソン

DNAの二重らせん構造をフランシス・クリックらと解明したひと。
私も大学院ではこのDNAに関わる研究をしており、彼の論文のコピーを大事にファイルしてたの覚えてる。

エンジニアは作るときになるべく失敗しないような選択をするが、サイエンスでは個人の失敗はたいして問題にならないから、大胆に仕事をするという。
現在私が直面しているのがここである。仕事で企業と大学の共同研究のお手伝いをさせてもらっているのだが、企業はエンジニアというかビジネスという意識が強すぎる。リスクやコストの管理は確かに大事である。金儲けのためだからね。でもリスクを冒さない。だからビジョンとは裏腹につまらないプロダクトへ向かってしまう。ところが大学の研究はプロダクトを作りたいわけではない。研究成果、つまり論文などが書けるのがよいわけだ。この間に挟まれていつも頭を抱えてしまう。

アメリカ人が歴史を知らないというボストンの新聞の記事の話。
リンカーンが誰であるかわからないとかワシントンが初代大統領であることがわからないといった、いわゆる「学力の低下」みたいなことはアメリカでも言われているようだ。
ここでワトソンはこう言う

日本では、何人の天皇を知っている必要があるのか。

ふむ。まず初代天皇は?なんて聞かれて即座に「神武天皇」なんて出てこないものだ。
もちろん、こんな記憶主体の教育はダメで、考える力が必要だと言っている。

多くの人は、非常に忙しく立ち働いているけれども、深く考えずに、単にそれができるからそうしているだけのことなんですね。

あっ、はい...すみません。


以上、6人の様々な考え方を一度に読めるのでなんだかお得感ある本だった。