A Perfect Night For Bananafish

だがそれを語るには人生は短すぎる

くらやみの速さはどれくらい

くらやみの速さはどれくらい (ハヤカワ文庫 SF ム 3-4)

くらやみの速さはどれくらい (ハヤカワ文庫 SF ム 3-4)

「あなたは考えたことがありますか? 暗闇の速度がどのくらいか?」

自閉症が治療可能になった近未来。自閉症者最後の世代であるルウは、製薬会社の仕事とフェンシングの趣味をもち、困難はありつつも自分なりに充実した日々を送っていた……ある日上司から、新しい治療法の実験台になることを迫られるまでは。”光の前にはいつも闇がある。だから暗闇の方が光よりも速く進むはず”そう問いかける自閉症者ルウのこまやかな感性で語られる、感動の”21世紀版『アルジャーノンに花束を』。”

―背表紙あらすじより

訳者が「アルジャーノンに花束を」と同じ小尾芙佐なので、21世紀版と評されても不思議と腹が立たない。
自閉症者ルウの視点とそれを取り囲む人たちの視点が交互にテンポよく語られる。

自閉症である自分と自閉症が完治した自分。それは果たして同じ自分?新しい治療により正常に戻れるというが、正常とはいったい何だ?
* * *
抑うつ状態だった自分は薬を飲み正常に戻ることを選択した。勤めていた会社も辞めた。これも自分で選択したことだ。そうしないことだってできたのだ。
人生とは暗闇を手探りで進むようなものだ。そしてその先には死という終局が待っている。それに向かってある一定のパターンに当てはめることもできるかもしれない。ただそこに向かう経路はひとつではないはずだ。パターンは自分で選択できるはずだ。ただ宿命に流されて光差す湖のほとりで癒しを待つのではない。僕という暗闇は横たわってるだけでない。鬱という闇の深淵から光明を求めて旅に出る。ただじっと待っていても朝日は昇るかもしれない。でも僕は事象の地平線を朝日に向かって歩き出すのだ。新しいアイデンティティを手に入れるために。
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Elizabeth Moon